早野梓と樹海と

富士北麓に住んで30年が経ちました。その間、青木ヶ原樹海、富士五湖を中心に小説の舞台にしたり、四季折々の自然を楽しんできました。
これからも、さらに仲間たちと、それらの思い出づくりを積み重ねていこうと思っています。
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ショートショート・一生一緒よ![2009/10/19 17:28]


 私には学生時代に、結婚を約束した人があった。とても美人で優しい女性だった。私を心から信頼してくれていた。その女性が、ある日、交通事故にあってしまった。そして、私が、二人の永遠の愛として贈った、金色の指輪をしていた左手を、肩から切断されてしまった
 その時から、あれほど、どんなことがあっても一生一緒だよ、と約束していながら、私は彼女を避けるようになっていた。その後、私は、別の女性と結婚した。彼女はなんの恨みごともいわず、仕方ないと冷静にそれを承知してくれた。彼女は今でもひとりでいるという噂を耳にしている。
 その話とは全く関係ないのだが、ある日、駅に通じる暗いトンネルでバラバラ事件があり、夜になると、白い腕が、スウッと通行人の前を横切るという噂がひろまった。勿論、その腕の被害者の身元もわかり、いたずらをした犯人も捕まって解決済みであった。
 それからしばらくして、私がそこを通ろうとすると、一人の女性が、怖いので一緒に行って欲しいと言って、私の腕にしがみついてきた。私はガタガタ震える女性と一緒にそのトンネルを通り過ぎた。何事もなかった。トンネルを出て私は、
「もう大丈夫ですよ」
 といって彼女の方を見ると、女性の姿はなく、金色の指輪をした、白い腕だけが、私にしがみついていた。私は驚いて、腕をふりはらおうとすると、その腕はもう消えてしまっていた。
 私は、昔の女性の居場所を調べて、さりげなく電話をしてみた。とても明るい声で、ひとりでも、とても幸せに暮らしている、という返事であった。私は負目があるだけに、それを聞いて、ホッとした。
 私は結婚以来、浮気ひとつせずに、今まで来た。もう二度と、人を裏切ることはいやであったからである。
 それに、人には言いにくいことだが、妻の「手をつかった愛撫」のテクニックは素晴らしいものであり、他に気持ちを移す暇もないほどであった。
 私はある日、とても寒くて目を覚ました。横を見ると妻のフトンが少しめくれていたので、かけなおそうとして、フトンをそっとはがした。
 すると、なんと、妻の左手の脇の下にもう一本、腕があった。
 金色の指輪をした白い腕であった。
 昔の女性の、「一生一緒よ」と言う声が、私の耳の奥でささやくのが聞こえた。

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