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「ほら、今、どっかの国で、自分の権力を脅かす人間を大量に殺した、という罪で、死刑に処せられた大統領がいるじゃないか、それも事実上、他国の権力者によってさ。あれって、昔なら処刑された者は、逆に大英雄だったわけだよなあ」
「なるほど、そりゃあ、そう言えるかもなあ」
私はうなずいた。
「だけど、それが、時代のせいかどうか、昨夜、寝ながら考えてみたんだ」
「ほう、寝る前に、難しいことを考えるもんだな」
「それでなあ、結論だ」
彼の語気が強くなった。
「どうなったんだ?」
「日本の戦国時代が、地球規模になったと考えてみると、地球をまるごと自分のものにしようとするものが現れても、不思議ではないかも知れない。もしかしたら、人類のそういう歴史は、未来永劫変わらないのではないか、と思ったんだ。人間の権力欲は、人類の宿命じゃないか、と思えてきたんだ」
私は、なるほどなあ、と思った。ものごとは見る角度によって、正しい、正しくないが変わるのだろうと、改めて考えさせられた。彼は話を続けた。
「それでな、この世にいてもいなくても、どうでもいい人間っているのか?」
「うーん、理屈ではみな平等。だけど、実際にはたいがいの人間がどうでもいい側に入るような気がするなあ。もしかしたら、人類の九十パーセントくらいは、どうでもいい側の人間かもなあ」
私も、やや真面目になって答えた。
「そうだろう、そうなんだ。テレビでやってる大河ドラマという番組なんて、そういう側の人間を、まったく考慮していない。そういう、とてつもない鈍感野郎がつくっているとしか思えない」
「そうだなあ。確かにな……」
私も昔、自由にテレビを観ていた時代を思いおこしていた。
ちょっとした沈黙の時間があった。しばらくして、
「おい、日本国の憲法改正をどう思う。集団自衛権の行使とかさ?」
仲間は、そう言ったきり言葉を発せず、また弁当を食べ始めた。ここではそれは、あまりにも冗談すぎて、すぐに、その言葉は居場所を失っていった。
何の答えも期待していないのだろう。だが、ここの仲間たちは、新聞はよく読む。何紙も読む。週刊誌もよく読む。スポーツに詳しいヤツ、政治に詳しいヤツ、もしかしたら世間の情報は、世間の人より詳しいくらいだ。何しろ、夕方には、拾ってきた新聞に目を通すのは、ある意味、習慣になってしまっているほどだ。
しかし、誰もその中身の話はしない。全く口にしない。まるで、そういうことに触れることが、ここのオキテに反するかのように……。
ここは、世界が違うと主張しているかのように……。
雪は変わらず、重たく、降り続けていた。