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 パーティの席で一人の男性が死んだ。飲んだ高級ブランデーに毒が入っていたのが原因であった。そこに居合わせたのは、男二人と、女三人だった。その五人のうち、誰もが、ブランデーのボトルに毒を入れるチャンスがあった。五つのグラスすべてに毒が入っていたのに、彼だけが、それを飲んで、他の者は、まだ、口をつけていなかった。
 彼は一口飲むと、すぐに苦しがり、あっというまに死んでしまった。他の四人は、ただ茫然とそれを見ているだけであった。
 彼は死ぬ直前に、
「裏切り者」
 という一言をうめいて、息がとだえた。
 警察はもちろん、殺人事件として対応しはじめたが、犯人は、五人のうちの誰かだという視点での調べが開始された。
 ともかくも、五つのグラスのすべてに強力な青酸性の毒入りのブランデーが入っていたのは確かである。
 もし彼が先に飲んで呻き声をあげなければ、他の誰かが、それを飲んで死んでしまっていたはずである。あるいは、一斉に何人かの人が死んでしまっていただろう。
 そう考えると、五人のうちの一人が、四人全員を殺そうとして毒を入れた可能性も考えられた。
 あるいは、ある一人の人を殺そうとして、他のものも巻き添えにしても、それでもよい、と考えたのかも知れなかった。
 グラスに毒入りブランデーを注いだのは、実は、死んだ彼自身であった。
 五人の交友相関図では、A子が彼と愛人関係にあった。それ以外の人たちは別に、あやしいところはなかった。彼は四十歳で妻子があった。A子も夫がいた。まれにみる知的な美人であった。いわゆる不倫であった。
 A子は見るにしのびないほど泣きくずれていた。二人の身辺が調べられた。
 すると、二人とも、つい一ヶ月前に多額の生命保険に入っていることが分かった。受取人はそれぞれ配偶者となっていた。
 何か変だ、ということで、A子が徹底的に調べられた。
 結果は、死んだ男とA子の計画的心中であった。二人の愛は結局はこの世では結実しないことを悲観して、死を決心したとA子は言った。
 しかし、残される家族には何の怨みもない。いや申し訳なく思うばかりであった。それで、せめて生命保険を残そうと考えたのだった。
 だが一年以内の自殺では保険はおりない。
 そこで、誰かに殺されたようにみせかければ、事故扱いの多額の保険がおりることがわかったので、それを狙ったと、A子は言った。
 二人ですべてのグラスに毒入りブランデーを入れ、二人が先に飲めば、他の人には迷惑がかからず、死人に口なしで証拠は残らない。
 実に見事に、犯人のいない殺人事件となるはずだった。
 しかし、A子はいざという瞬間、毒を飲まなかった。
 それを見た、彼が、
「裏切り者」
 とうめいたのだった。
 そして、
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A子は警察の追求の厳しさに、これが心中であったと言ったのだった。
 だから、自殺なので、生命保険はおりなかった。しかも、彼は愛する人と別れ別れになってしまった。はかなくも悲しい不倫の結末ということで、数日後に、事件は解決したのだった。
 その夜、A子は、「新しい男」のとなりで、そっと、つぶやいていた。
「彼はかわいそう過ぎるわ。本当は保険は、おりるはずなのに。だって、私は彼に飽きて、彼と偽装心中したのに……」