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 良雄は、ある会社の管理職であった。四十歳を超えていた。仕事が忙しく、家に帰るのは、いつも夜遅くであった。妻はその時刻は眠っているのが常だった。
 いつのまにか、良雄は自分一人、庭にプレハブを建て、そこに住むようになった。
 それが、意外と居心地がよかった。寝る時刻も拘束されないし、好きなクラシック音楽をいつでも聞くことができる。子供と話をしたければ、母屋の居間にいくと、いつでも話ができるのだから家族との距離感もなかった。いい家庭環境だと満足していた。
 ある日、寝る前にラジオのスイッチをつけると、中学生と思われる女の子の声が聞こえてきた。
「私、男の子におてあそばれた上、捨てられてしまったんです。」
 というのだった。
 良雄は、自分にも同じ年頃の娘がいるので、ふと、聞き耳を立てた。
「男の子は高校三年生なんです。学校を卒業したら、結婚すると約束したんです」
 良識のある大人だったら、高校生と中学生がうまくゴールインできるなどとは考えはしないだろう。愛とか、結婚とか、人生にとって、きわめて重大、かつ不可解な言葉を、いとも簡単に、「恋の秤」として使う今の風潮を、良雄は苦々しく思っていた。ラジオの声は続いていた。
「彼の両親がいない時に、彼の家に行くんですが、彼、とっても優しく何回も、私を抱いてくれるんです。最初は、こんなことイヤだと思ったのに、今では、彼の家に行けないと、気が狂いそうになるんです。体が変なんです」
 何ということだ。中学生の女の子が、自分から求めるなんて。良雄は信じられない気持だったが、その場面を想像して何となく、変な気持にもなった。というよりは、明らかに、よこしまな考えを持って、話しを聞きはじめていた。その高校生と自分とを二重写しにして、想像をふくらませていた。自分の手が、指が、体が、子供のような、しなやかな肉体に触れることを思って、良雄は体があつく変化するのを覚えた。ラジオは続いた。
「じつは私、妊娠してしまったんです。でも、結婚するんだからいいんだと思って彼に言ったら堕ろせって言うんです」
 妊娠という言葉は良雄の年代にとっては、実に刺激的な言葉である。とにもかくにも、肉体的な関係があったことの絶対的な証なのである。それに、その言葉を聞くと、どうしても、裸のお腹のあたりを想像してしまうのである。そのあたりは、男にとって、充分に性的に誘惑的な場所なのだ。
 電話の声は、泣き声になっていた。
「いくら彼に言っても、彼は全く受けつけないんです。それどころか、つまらないと言って、他の子と遊ぶようになってしまったんです」
 良雄は、少々よこしまな気持で、ラジオを聞いていたが、話も、ここまでくると、世の中には、バカな女の子もいるもんだ、という思いと、今時の子供は何をしているのかわからない、という気持で、何となくイヤな気分になって、ラジオのスイッチを切った。
 良雄は気分を直そうとして、母屋にあるトイレに行った。
 すると廊下で、自分の娘が泣きじゃくっていた。今、たしかに、ラジオで聞いた声だった。
 良雄は、突然、頭を鈍器で殴られたような錯覚を覚えた。脚が硬直して動かなかった。ラジオの声はまだ、続いていた。
「だから、
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私、彼のあそこを、包丁で切り落としたんです。そして、胸を何度も刺して……」
 良雄は、頭の中にミミズが入ってくるかのようにゴチャゴチャ感に襲われ、気が遠くなっていった。