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幽霊のいない幽霊屋敷
ある日曜日の朝、妻が言った。
「山梨県のR村に幽霊屋敷があるの知ってる?」
今時、幽霊の話など信じるはずもないが、しかし、夫婦には会話が大切だ。私は、面白がってみせた。「へぇ、それは怖い話だね。見た人はいるの?」
私がそう聞くと、妻は言った。
「それがね、幽霊を見た人は、今まで一人もいないんだそうよ」
「それじゃ、幽霊屋敷なんて言うのはおかしいよ」
「ところがね、その屋敷に住む老婆が、ここは幽霊屋敷だ、と言っているらしいの」
会話はそこで途切れた。
私はその日、別段、用事もなかったので、車で二時間位のところにあるR村へ行ってみることにした。
屋敷といっても古い民家という程度のものであった。確かに、老婆が一人いた。
「ここは幽霊屋敷だというので来たのですが、屋敷を見せていただけますか?」
と聞いてみた。すると、無表情な顔をして、
「どうぞ、でも何にもありませんよ」
と言うのだった。
「でも、噂じゃ、幽霊が出るという話だが?」
と聞いてみた。老婆は意味ありげにニヤニヤとして、
「幽霊の出ない幽霊屋敷ということなんだよ」
と言った。訳がわからなかったが、とにかく、中にいれてもらうことには成功した。
私が入口から入ろうとすると、老婆は、
「ただ、ある部屋の、大きな鏡だけは覗かんほうがええ」
と、小さい声でつぶやいた。
おや、と思ったが、そう言われれば、よけいに見たくなるのが人情である。私は鏡の部屋が見たくて胸が高鳴った。
屋敷の中にはホコリっぽいだけで、別に何かある様子はなかった。私は極度のぜんそく持ちなので、そのホコリで、咳が出はじめてしまった。急に苦しくなり、鏡の部屋を見る気力もなく、急いで外に飛び出した。老婆がそこで待っていてくれていて、私の背中を擦ってくれながら
「あんたは、鏡を覗かなかったようだな。それはいいことだ」
と言うのだった。私は不思議になって尋ねた。
「どういうこと、それは?」
「うん、あの鏡の裏には、山梨の山奥に捨てられた、いわゆるウバ捨て山の、昔の老婆が、ウロウロと、天国にも地獄にも行けず、さまよっているんだよ。そして、そこを覗いた人の魂の中に入りこんでしまうんだ。だから覗いた人は本当は中身は老婆なんだ。ここを見に来た女性は、もう二千人にもなるよ」
私も、確かに、昔、山梨のある地方でウバ捨てがあったという話は聞いたことがある。貧しいがゆえの、悲劇だと胸を痛めたことを覚えてはいた。しかし、だからと言って、今時、老婆の言うような、