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愛の形(砂糖と塩のショートショートより)
僕たちは、真剣に愛しあっていました。時々、わけもなく、貴女の美しさに、嫉妬してしまうほど、貴女のとりこでした。
僕が会社に行く時も、僕が外から帰って来る時も、僕が貴女の身体にそっと手を触れる時も、貴女はただ、白い微笑みを、僕に返してくれました。ただの一度だって、僕のいやがることは、しませんでした。今時、こんなに素直な女性が世の中にいるのだろうかと、不思議でなりませんでした。
僕は、貴女がそばにいるだけで、充分幸福でした。それだけで、僕の人生はバラ色でした。
料理は僕がつくりました。掃除も洗濯も僕がやりました。僕はそれでいいのだと思っています。これが、男の仕事、これが女の仕事だというようなものは、世のつくったテクストにすぎません。仕事に分担は、二人の間で決めればいいのです。
結婚だってそうです。派手に式を挙げることが、幸福になる条件だとは思えません。僕たちのように、式も挙げず、ひっそりと、世間の目を逃れて暮らしていても。それで、二人が幸福ならば、それが一番素晴らしい結婚のはずです。
三年前、貴女と知り合った時、貴女は、そんな僕の考えに、少し反対でした。僕はそんなことにかまわず、男らしく、貴女に結婚を申し込みました。そして貴女の身体に僕の身体を重ねようとしました。貴女は、照れくさかったのか、わざと、驚いたふりをして、抵抗しました。
貴女は、ふざけていたのです。
僕は少しあわてたけれど、貴女の首に廻した手にちょっと力を入れると、貴女は、僕にすべてを与えることを、覚悟したかのように、静かになりました。
その日から、僕たちの不思議な結婚生活が始まりました。
貴女は、人形のように、ただ微笑んでいるだけでした。貴女は、普通の人と違うところがあって、貴女の白い身体は、暑さが大嫌いでした。僕は、毎日、貴女の身体を涼しくするために、ドライ・アイスを買ってきました。貴女は、そんな時、とても気持ちよさそうに微笑みました。
でも、そんな幸福の日も、長くは続きませんでした。他人の邪魔が入ったのです。二人の仲があまりにもよいので、警察までつかって、僕たちの恋の邪魔をしようとする人がいたのです。
僕には、だいたい、誰がそうしようとしているのかは、分かっていました。僕たちの幸福な生活ぶりを、ふと見てしまった、隣近所の奥さん方なのです。以前からそんな予感がなかったわけではありませんが、現実のものとなると、とてもショックでした。
僕は考えました。貴女を絶対に他人にとられたくありません。貴女の白い肌が、他人に触られると想像しただけで、怒りがこみあげて気が狂いそうです。警察なんかに渡したくありません。
そのために、僕は、貴女を食べてしまうことを思いつきました。食べてしまえば、貴女と僕は、完全に一体となれます。誰にも気付かれる心配はいりません。
僕は、実行しました。思ったより口に合いました。それはそうです。愛している人の肉なのですから。