3 / 3
どうした? 話してごらん」
私は、そう言うしか、言葉を思いつかなかった。
「なによ、用事がないなら帰るわ」
彼女は、怒ったような表情をして、さっと帰っていった。
翌日、ゼミで、その話をした。彼女は、
「何を言っているのよ。わたしは、昨夜は、部屋で、ずっと寝ていたわよ。変なこと言わないでよ」
と強く、真剣に、反論してきた。
私は、教授に相談した。私は、かなり真剣だったが、教授は余裕の表情をして聞いていた。
「ふううん、それじゃあ、周囲の、できれば、女友達に、そういうことが、今までなかったか、聞いてみるといい。多分、ある時期ころから、そういうことが、何回かあったはずだよ。実は、それを本人も、うすうす知っているはずなんだ」
と教授は、何か、軽い出来事でもあるかのように言った。そして、窓の方を身ながら、
「それも私、これも私、研究中も私、睡眠中も私、どれもが私なのか? それとも、私が私でない時があるのか?」
と、ぽつりと言った。そして、その部屋の空気が動かなくなったと、私は、思った。
「教授……」
と私が声をかけようとすると、すっと、こちらを向き、
「ボクに答えられないことは聞くな。死については、私は考えないようにしている」
と、私の言いたいことを、見透かすかのように言った。私も言葉を閉じた。人類の誰一人として答えを持たないことを、今議論しる時ではないと思った。
さっそく、彼女の友達に聞いてみた。
「ああ、彼女は、よく分からないけど、夢遊病なのよ。何回かそういうことがあったけれど、全裸というのは、あぶないわよねえ。今のところ、事件までには至っていないけど。彼女には、その話はしてあるわよ」
と、その友達は言った。
彼女が教授に呼ばれた。教授は、彼女に、ある病院の、脳神経科を紹介した。
「教授、これって、病気ですか? 自分が気がつかない、もう一人の自分がいるのか、脳の病気なのですか?」
彼女が聞いた。
「そりゃあ、専門家しか分からんだろうけれど、まあ、MRIを撮れば、すぐに分かるだろうよ」
結果は、すぐに判明した。小さな脳腫瘍があった。簡単に手術で治った。
突然見た若き全裸の女性。私には、それも軽いショックであったが、セックスをしている時、女性が、我を忘れたかのように、奇声を発する時がある。いつもの、静かな仕草の女性とは思えない。
私は、いつか、そのことを聞いてみようか、聞くまいか、つまらない迷いを感じている。もし、それを自覚できているなら、女性というのは、とてつもなく柔軟な私を獲得しているのではないかと、思うのだ。