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別に、ここに入って欲しいという熱意がないのだろう。特段、ここを薦める様子は見られなかった。
「ここにするわ。わたしは、迷信的なことは信じないタイプだから平気よ」
と朋子が言うと、不動産屋はおどろいた様子だったが、所定の書類を書いて、ともかくも、その部屋に入居することとなった。
翌日は、父親も来て、家財道具も揃った。
それから、何事もなく一週間が過ぎた。もともとの親友だったミキも遊びに来た。ミキは、この部屋のうわさを知っていた。
「ほんとうに、何もない? わたしは、この世で、カラスが一番嫌いなのよ」
と、真剣に聞いた。朋子は、見ての通りよと答えた。ミキはそれで納得した。それだけではなく、ミキは八万円もする繁華街のアパートに住んでいるので、生活費が苦しく、週に何回か、スナックでアルバイトをしていた。わたしも、ここにすればよかったわと言った。そして、とんでもないことを言い出した。
「ねえ、ルーム・メイトになってくれない。今のわたしの家賃の半分、四万円を払うからさあ。最近、酒飲みオヤジの相手をしているのが、とても精神的に疲れるのよ。実は、かなりの年配の男にストーカーにあっているの」
朋子はおどろいたが、部屋的には、二人で暮らすのに支障はないと思えた。
「ちょっと待って……。わたしは何もしないで、四万円ももらえるの。それって、わたしは、得のしすぎじゃない」
「わたしも半分の四万円で済むし、バイトしなくていいから、それでいいのよ。それに、一人住まいは、案外、無用心なのよ」
話は、とんとん拍子にすすみ、数日後には、同居が始まった。いくら親友とはいえ、プライバシーは確保しなくてはならないということで、真ん中に、カーテンをつけた。寝る時以外は、カーテンが引かれることはなかった。だが、天井についている蛍光灯のライトは、それぞれのベッドの真上に付け直した。朋子もミキも、寝たままでライトを消せるように、ライトを消滅させる糸の線を、ベッドから手を伸ばせば届くほどに長くした。
朋子は思った。今日一日の終わりは、いつも天井をみつめ、ぼんやりとし、ライトの線を引くことだと考えると、何か、その糸の線が、奇妙に楽しくもあった。
ある日、朋子が実家にいき、数日後の深夜に部屋に戻ると、ミキが真っ青な顔をして、
「助けて!」
と叫んでいた。朋子がどうしたの? と聞くと、
「カラスが来たのよ。そして、ライトから垂れ下がった糸をわたしの首にまきつけ、締め付けようとしたの。その時、朋子が来て、カラスは窓から逃げて行ったの」
朋子は窓を見たが、開けられた様子はなかった。糸が首に巻きつかれていたのは確かだった。カラスが糸を切ったのか、ミキ自身でその糸を切って自分の首に巻きつけたのか、それは分からなかったが、自分一人で、その糸で、寝たまま自殺をはかるのは困難だと思えた。
ミキは怖いと言うので、その夜は、ホテルを探し、二人でそこに泊まった。
朋子は、それ以降もそこに住み続けたが、カラスを見たことはなかった。そんなことがあったので、机の上にカラスが見えたような気がした時があったが、よく確認すると、何もなかった。朋子は、特段、カラスに嫌悪感を持っていない。鳥類の一種ではないかとしか思っていなかった。
とある日、