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どちらかというと小太り組であろう私のTシャツ姿は、青年とはアンバランスのように思えたが、通路側に腰を下ろした。青年は、私が腰を下ろしたと同時に、
「どうぞ」
と言った。席の位置を気にしたわりには、隣りに誰が座ろうと、それには無関心のような言い方だった。
「あのですねえ、そのお、この席に座るとか、座らないとか、そんな、占いみたいなことで、遺伝しているとか、していないとか、何か特別なことが、分かるんですか?」
私は、ただ思いつくまま聞いた。私は、糖尿病を患っている。父親もそうだった。祖父もそうだった。だから、どうも、遺伝という言葉に敏感になってしまう。
「いや、遺伝ではなく、遺伝子と言ったんです」
青年の表情は、なんだか、とても、すがすがしい。何か、重大な決意の線上を歩いているかのようでもあり、一仕事終えた帰りのようでもあった。
「遺伝って、遺伝子のことでしょ?」
「まあ、親から子に遺伝子が伝えられて、具体的に発現した何らかの現象の総称を遺伝と呼ぶのでしょうかねえ。ボクが言ったのは、我々の行動のすべては、遺伝子によって、まあ、生まれつき決定されていると言ったんですよ」
「生まれつき?」
「生まれつき、という表現も正確ではないなあ。つまり、今の行動そのものが、遺伝子の働きだと思うんですよ」
「意味が分からないなあ……」
私がそう言うと、
「そうでしょうねえ。ボクもよく分からずに言っているんですよねえ。でもね、ボク流の考えによるとですね」
彼は、そう言いながら、どっとイスに腰を深くして、話を続けた。
「人間は約六十兆個の細胞から成っている。その細胞ひとつひとつに遺伝子が組み込まれていて、遺伝子が働かないと、何もできない。つまりですねえ、ここはボクの席だとチケットを確認したのも、脳細胞の遺伝子が働いて、そうさせた。ここに座るべきだと遺伝子が指令した。まあ、これだけ空いているのだから、どこに座っても、何んの問題もないでしょうが、そうしなかったのも、遺伝子がそう働いた。そういう意味です。ちょっと、つまらん話ですがねえ」
青年は無表情に近い顔で、こちらをよく見ずに言った。
「私は、自分の行動を、そんなふうに考えたり、分析したりしたことはないなあ」
私がそう言うと、
「ボクだって、そんなこと考えて行動しているわけではないんですよ。ただ、なぜ? と聞かれると、そう思いつくので、そう言ったまでのことです」
青年の目つきが、やや真剣になったように思えた。
「ちょっと、質問ですが、いいですか?」
私は青年の顔色を窺いながら言った。青年はいやがるような節は見えなかった。
「人間の行動を、そんなふうに、極限的に、いつも考えているのですか?」
私がそう言うと、青年の表情が、ゆるんだようになった。
「ボクの言いように、少しは賛同してくれたのだと思うのですがどうでしょう。まあ、それはどうでもいいとして、