prologue
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 言葉師。
 それは、『言葉』を意のままに操り、扱う者のことを言う。

 私はそんな言葉師。
 言葉一つで契約し、言葉一つであらゆるものを使役する。
 そして言葉だけで、『法術』と呼ばれる力を使う。

 言葉には力がある。
 人の心を動かすだけの力ではない。


 人を殺すことも、生かすこともできるほどの力だ。


 そんな『凶器』となった言葉を、人間はその力に気づかずに使う。
 確かに扱いを知らなければあまり意味を成さないが、それでもまれに、知らないうちに傷付けたり、殺してしまう人がいる。

 だが……それは殺人にはならない。


 それを逆手にとり、悪事をはたらこうとする組織を『異葉』(ことば)、それを阻止しようとする勢力を『詞』(ことのは)と呼んだ。


 言葉師の呼び方もどちらに属するかで決まる。


「槞霞」


 私の名を、彼が呼んだ。
 彼は私の唯一の保護者、蔵人相馬(くらひとそうま)。

 小さな時からずっと一緒だった。

 私の両親は、異葉師に殺されたから。


「明日から高校だろう。もう寝なさい」
「……ええ、そうね」

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 蔵人は、私の背中を優しく押す。
 彼は言葉師の中でもとても強い。……私と違って。

 頑張ってはいるのに、私はまだ、言葉師の中でも、真ん中くらいだった。


「おやすみ、槞霞」
「おやすみなさい」


 もっと頑張ったら、いつか……。
log01:An opening
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 世の中をおもしろくする方法、なんて本があったとしても、俺は決して読まない。
 そんな方法、あったとして迷惑だからだ。

 それに、俺はミルクキャンディーさえあればそれでよかった。

 ミルクキャンディーは最高だ。
 ほんのり甘く、とても優しい味をしている。
 疲れた時にも、甘いものが食べたい時にも、おそらくうってつけだろう。


 そう、本を読む時にもとてもよい。
 疲れていく頭の疲労をとってくれる。
 そんなことで、俺はミルクキャンディーが大好きだ。


「………ん?」


 袋の中に手を入れると、ミルクキャンディーがないようだった。
 だが心配は要らない。
 俺は日々、ミルクキャンディーを最低二袋は常備しているからだ。


「………んんん?」


 どうしたことだろう。
 鞄の中にミルクキャンディーの袋が見あたらない。
 もしかして、何かをミスったのか俺。
 駄目だ、もうミルクキャンディーを食べなければ俺の体力が………


「ぐ、ふ、………がはっ!!!」
「きゃあああああ!!!! せ、先生!!! 暦瓦くんが倒れましたぁぁぁ!!!」


 意識の遠いふちで、隣の席に座る女の子の声を聞いた気がした。





log01:An opening
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「はあ? 行方不明?」
「そうそう、ほら、あそこの席の坂本さん!」


 保健室でミルクキャンディー中毒を抑えるための処置を施された(ミルクキャンディーを一袋もらった)彼、詩季は、後ろの席の友人、高菜の話を聞いていた。

 単なる噂話である。


「坂本さん、この前の部活帰りにぱったりいなくなっちゃったんだって」
「へぇー。で、っていう」
「ひ、ひどいなおまえ………」


 全く興味のない詩季は、真顔でぴしゃりと言葉を切断する。
 そしてぐるりと周囲を見渡して、止まった。


「ん? あのコ………」


 彼の記憶には新しい、おとなしめの女の子が座っていた。


「ああ、あの子は『白色 槞霞』(しろしき るか)ちゃんだよ。お前は保健室行ってたから知らないだろうけど、今朝きた転校生」
「へー………」


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 ちなみに彼は実は朝のSHRで倒れていた。
 ちょうど彼女と入れ替わりだったのだという。

(くっ、声を聞いてみたかったな……。中々いいコじゃないか………)

 隠れ変態と自覚する詩季は、彼女を見つめる。
 彼女は本を読んでいるようで、こちらには見向きもしない。


「あー、あのこは止めとけよ。すっげー冷たいぜ?」
「そのくらい熱することはできるはずだ」
「お前はホント物好きだよな……。だから友達すくねーんだぞ?」
「かまわん。俺は静かな方が好きだ」


 高菜は、詩季の幼稚園からの友人である。
 彼の他に現実的に、高校の中に、友人はいない。

 ネット上にはたくさんいるようだが。


「で、さ。坂本さんさ、けっこー苛められてたんだけど」
「なんで」
「え、いや、知らないっつの。だって女子が密かにだし」
「ふーん」
「うーんと、で、古い更衣室に閉じこめられたらしーのよ。で、翌朝女子が見に行ってみるとそこには誰もいなかって噂なんだよな」
「へー」
「いやー、怖いよなぁー。うちの高校にもやっぱなんかいるのかな!」
「そーですねー」
「お前もそーいうの興味あんのか?」
「そーですねー」
「……興味、ないか?」
「そーですねー」
「森田和義アワーじゃねーんだぞテメェ!!!」


 ぶん、と怒りにまかせてふるった拳が空を切る。
 ひょい、と避けた詩季は、真顔で、


「だってそれ噂だろ」
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 と、いつものように呟いた。
 さぞ、興味なさげに。


「んだよ、おまえはそういうのに巻き込まれるストーリーな小説に憧れたりしないってかこのやろう……夢がないな」
「いや、俺はギャルゲーには憧れるがああいう面倒なのはちょっと……」
「おまえそれはただの変態だろうが!!!」
「それは仕方ない。生まれ持った性格だ」
「いや否定しろよ!! だからお前、友達できねーんだぞ!!」


 はあ、と高菜はため息をつく。


「……つーか、そういうのに巻き込まれることほど迷惑なことねーし、そういうのはないって分かり切ってるだろ」
「………そりゃ、そうだけどさ」


 高菜は、誰もが口にするその言葉を、何気なく、口にした。


「なんかあった方が、おもしろくて、いいだろ」
log02:The thing which is not g
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 放課後、彼はそこに来ていた。
 行方不明者が出たという、その古い更衣室だ。
 高菜ももちろんのこと、一緒である。


「うっわー、なんか出そうな感じ……」


 高菜がおそるおそる、扉に手をかける。



ぎゃあっ ぎゃあっ



「うわあ!!!?」
「安心しろ馬鹿菜。カラスが飛んだだけだ」
「ちょ、馬鹿菜って!? 俺、高菜ですけど!?」


 カラスの声にびびった高菜は、少し涙目になっていた。
 ドアを力なくおし、少しだけ開く。


「し、詩季ぃ……」
「なに」
「ちょ、ちょっとみてきて……」
「………怖いなら、くるなよな」


 呆れながら、詩季は中に入る。
 中は薄暗く、ほこりくさかった。
 三歩ほど中に入り、振り返る。


「おい高菜、やっぱり何も――――――」


バタンッ!!!


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 振り返った瞬間、扉が勢いよく閉まった。


「……高菜ぁ、ガキっぽいことやめようぜ」
「ち、ちげーよ詩季!! あ、開かないんだ!! 真面目にだぞ!!!」
「いや、そういう芝居とかいいって。早く開けろ。じゃなきゃ扉ごと破壊するぞ」
「ほ、ほんとに開かないんだって!! お、俺、斧とか持ってくる!!!」


 高菜の走り去る音が聞こえた。
 どうやら本気で開かないようだ。
 少しだけ、心臓が早まった気がした。

(……高菜が「なにかあった方がおもしろい」なんていうからだな………)

 そんなこというから、真面目におこっちまったんだ。
 そう詩季が解釈する。
 鞄を探り、追加のミルクキャンディーを口に放り込んだ。


「やれやれ………」


 とりあえず、詩季は電気か何かの明かりを探す。
 壁を伝っていると、スイッチを発見した。


「お、これで明るくなったな」


 ちなみにこの更衣室は体育館の隣にある、外付けの二階建てのプレハブ小屋である。
 体育館とは繋がっていない。
 二階への階段は、所々抜け落ちていて、あがれそうになかった。


「…………坂本さんとやら、いるかーい」


 ……しーん………。
 返事はかえってこない。
 ただただ声が響き、むなしくなるだけだ。
 案外窓から出られそうなものだが、
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わずかに背が届かない。


「さてどうするか……」


 1,坂本さんを探す
 2,斧とか探す
 3,何もしないで高菜を待つ


 どうする、俺………。


「待つか」


 なんとなく何もする気がしなかったので、詩季は待つことにした。
 その場に座り込む。


くすくすくす……


「ん?」


 しばらくすると、声が聞こえた。
 笑い声だ。


「誰かいるのか?」


くすくすくす………


 声はわらうばかりで、何も答えそうにない。


「……はあ。………“誰かいるのか”!」

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 ついに、彼は叫んだ。
 しん、と静まりかえる。
 笑い声が止んで、寒気が、彼を襲った。
 奥の方に、白い、影がみえる。



オイデヨ………オイデヨ…………

コッチニ……オイデヨ…………?



 女の子の声だった。
 色白で、とても長い黒髪。
 が、とっても残念なことに、可愛い顔が半分、壊死していた。


「………汚い」
「……エ?」
「その顔汚い。すっげー可愛いのにもったいない」


 詩季が、真顔でそんなことを呟いた。


「それにそっち側にゃいけねーな。俺、悪魔とか信じてるから、“仏教”側の人間じゃあないんだよねぇー」
「……イミ、ワカラナイ……。アナタモクルノ………ミンナイッショナラ……イジメラレルコトナンテナイノダワ………」


 彼女が、詩季に、触れる寸前。


「鬼子」
「わかっているです!」


 何かが、上から舞い降りた。

(あ、
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この子――――――)

 それは教室で目にとめた人物。
 紛れもなく、『白色 槞霞』だった。


「はあああああ!!!」


 頭に小さい角をはやした女の子が、白い子をかき消すように、こん棒を横殴りに振り回した。


「アナタね。噂を利用して、人の魂を喰らう“悪霊”は」
「……コトノハシ………!」


 悪霊と呼ばれた女の子は、距離を取る。
 詩季はただただ、呆然としていた。

 ギャルゲーとはほど遠いが、高菜が望んだ光景が、まさしくそこにあった。

(ちょ、俺じゃなくて高菜巻き込んでやればいいのに………)

 なんでこんな面倒なことに……。
 ああ、ギャルゲーならこの白い子ともきっとフラグがたつのに……。


「苛められている子を集めて、それで何になるの。弱虫は何匹集まっても弱虫のまま。強くなるなんて無理無理。アナタ程度の脆弱な悪霊、法術を使う間でもないわ。鬼子だけで充分のようね。ほんと、嗤っちゃうわ」
「……ヒ………「酷いだろ、そんなの」
「!」


 悪霊が喋るよりも早く、泣きそうな声が泣くよりも早く、詩季は口を開いた。
 おそらく、何かのアニメ・小説のぱくりであるような台詞を、真顔で。


「それは言い過ぎだ。言葉は人を殺せるんだ。気をつけろよ、お前」
「………アナタ何様」
「俺様だ。
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大丈夫か、悪霊ちゃん。気にするな、俺はそっちに行けないが、お前の味方だ。嘲笑うわけでも、苛めるわけでもない」


 正直、近寄って、その壊死した顔をみるのは耐え難かったが、そこは変態フィルターを使い乗り切る。
 詩季は悪霊の肩に手を置き、言った。


「安心しろ。俺が、守ってやる」
「エっ………」


 悪霊の頬がピンクに染まる。
 その瞬間こそ、詩季が悪霊に対してフラグを立てた瞬間だった。
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「詩季。暦瓦詩季だ」
「白色槞霞よ」
「た、高菜昭博です……」


 バチバチした空気の中、自己紹介は行われた。
 あの後、無事行方不明になった女の子たちを解放した詩季は、悪霊の女の子を懐かせフラグを立てることに成功し、更衣室からも出ることが出来た。

 そして悪霊の子は手続きしてくるとかでいなくなり、槞霞は鬼子をしまい、そんなあたりで高菜が斧をもって走ってきて、今の状況である。


「高菜くん。アナタも長生きしたいなら噂を信じて、こんな『馬鹿変態』とこんな場所を訪れるの止めなさい。いつか巻き込まれて死んじゃうわよ」
「え、いや、」
「おいおいそりゃどういう意味だ。俺は馬鹿変態じゃねえ。変人だ」
「それかわらな」
「あら。馬鹿じゃない。それに悪霊でさえ口説くなんて変態以外の何者でもないわ」
「その気になればどんなやつでも口説けるっての」
「変態」
「おまえこそ冷たいやつだな。クーデレってやつか?」


バキッ!!

 詩季にアッパーをする槞霞。
 あわあわと高菜がそれをみている。


「誰がクーデレですって?」
「……暴力女め………」
「それよりも高菜くん。少しはずしてくれるかしら」
「は、はいぃぃぃぃぃ!!!」


 悲鳴をあげるように、高菜は逃げていった。

(くっ、酷いやつだ。見捨てやがった………)

 その背中を見ながら、
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複雑な気持ちになる詩季。


「貴方、悪霊と契約するなんて、どういうつもり? 言葉師なの?」
「は?」
「……もしかして、異葉師?」
「……なあ」
「なによ」
「意味がさっぱりわからん。わかるように説明してくれ。一応聞いてやるから」
「……貴方、私のこと頭がおかしい子だと思ったでしょう」
「いいや。俺は結構見たことは信じるたちだ。それに、女の子の話は全て信じようと思っているから大丈夫だ」


 その発言で、さらにアッパーをくらわす槞霞。
 それも真顔で。


「貴方、言葉師でもないのに、悪霊と契約したのね。ほんと腹が立つわ。でも、規則に従って貴方に教えてあげる」


 一切表情を変えずに、槞霞は言った。


「私は言葉師なのよ。ついてきなさい」
「……へいへい」















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「おじゃましぁーす」
「入ることを許可してあげるわ」


 詩季は槞霞の家に招かれていた。
 高そうな高級マンションの最上階。
 そこが槞霞の住まいである。


「ここに一人で住んでるのか?」


 それはいささかギャルゲーもどきになってきたな……。
 と、うきうきする詩季。


「いいえ。蔵人……知り合いとよ」
「ちっ。つまらん」
「つまらないとは何かしら。貴方はどうなのよ」


 キッと睨みながら、槞霞は尋ねる。


「……俺は、一人だ」
「! ……ごめんなさい」
「謝ることはないさ……」
「そう。なら謝ったこと撤回するわ」
「ちょっ、結構あっさりしてんなおまえ!!」


 多少びっくりしながらツッコミをいれる詩季。
 椅子へと案内され、大人しく座る。
 麦茶が差し出された。

 夏だというのに、全く暑くない部屋。

 クーラーがきいているのだろうか……。
log03:An eccentric and a cold
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「で、何教えてくれるんだ」
「言葉師についてよ」


 こういうシチュっていうと、涼宮ハルヒ的な展開だが……まあユキちゃんにみえなくもないがユキちゃんよりも冷たいな……。と、麦茶をすすりながら詩季は考察する。


「言葉師。言葉を意のままに操る人のことよ」
「ふーん」
「私のように鬼やあやかしを使役したり、悪魔を使役したり、天使と契約したり、精霊を呼び出したり、力を借りたり、自然の力を借りて『法術』を使ったりできるわ」
「へー。便利だねー」
「そして、異葉師というのは、そういう力を悪用する人達のことよ」
「似たような言葉だから紛らわしいな」
「しかたないわよ。似たような者で、決して似ていない者なんだから」


 麦茶をすすって、槞霞は続ける。


「貴方の契約した『悪霊』。あの子は別の異葉師に使えていた子なのよ。だけど貴方の言葉に心を奪われて、契約は破棄。貴方が肩に手を置いた瞬間から、契約は成立した」
「え、そんなんで成立すんの?」


 マジでかよ、と詩季は目を細める。
 槞霞は少し厳しい表情で、


「悪霊・幽霊に関しては、触れるという行為はとても『恐ろしい』行為なのよ。場合によっては引きずり込まれたり、連れて行かれたりするんだから。だから駆除方法としてはめちゃくちゃに心を壊して、粉砕する。それも自らではなく、何か同等なものを使役して、ね」
「駆除って……虫じゃあないんだから………」
「でも虫よりも害は大きいわ」


 ばっさり言い放つ槞霞。

(……ま、
log03:An eccentric and a cold
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でもなんかカッコイイことにはカッコイイよな………)

 少しだけ優越感を得る詩季。
 高菜には理解できなさそうだし無理そうだが、自分には理解できるし、実際何も知らずに契約もした。


「いっとくけれど、こんなのまぐれよ」
「うっ」
「どうせ自分すごい、みたいなこと思ったんでしょうけれど、甘くみないことね。この世界はそんなに甘くないわ」


 ぐさぐさと言葉が心に突き刺さる詩季。
 机に突っ伏す。


「……私のおかあさんとおとうさんは、契約に失敗して、悪魔に裏切られて、死んだんだから」
「!」


 不意に顔をあげると、そこには。
 涙のにじんだ顔が、あった。
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 私のおかあさんとおとうさんは、契約に失敗して、悪魔に裏切られて、死んだんだから……。


 そう言った彼女の顔が、忘れられない。



 凛々しい顔ににじんだ涙。
 誰に殺されたにしても、人間ではないものに殺された。

 ましてや、復讐すらできない。


「高校生の俺には、重すぎる話だろうに―――――」


 呟いて、本を置いた。
 槞霞に帰り際、無理矢理渡された『法術の扱い方』という本だ。
 分厚くて、広辞苑くらいあるのではないかと思う。

 さらに苛めなのかと思うほど、小さな文字で字が敷き詰められていた。
 一ページがとても薄く、聖書のようだ。

 いや、実際聖書は読むことはできない。
 小さい頃から、聖書とお経だけはきいていたり読むと気分が悪くなるのだ。

 だから、少しばかり、この本は苦痛だった。


「マスター、暖かいお茶、おもちいたしました」
「ありがとー」


 ちなみにこの白い子は、今日契約した『悪霊』である。
 名前は白かったので「白」(しろ)。
 そのまんまである。

 格好は白い着物に真っ黒な綺麗な長い髪。
 大きなくりくりした目。
 壊死した部分は、詩季の計らいで包帯を巻いている。

log04:At first from a friend
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 片言だった言葉も、演出だったらしく、治った。

 姿だけみれば、雪女のようだ。
 髪が黒いのがおしい。


「白、おまえ、法術知ってるか?」
「知ってますよ? 前のマスターも使っていました」
「白、おまえ美人だなー」
「っも、もう、マスターったら」


 少し頬を染める白。
 その反応が楽しくて、詩季はニコニコする。


「マスター。何かあったら呼んでくださいまし。いつでも駆けつけます。私に名前をつけてくださったのですからね」
「うん、ありがと白。むしろお前も学校くる?」
「で、でも私、みえる人にはみえちゃいますよ?」
「気にしないよ? あ、つらかったらいいけどさ……」


 一応、白の素性をきいた。
 白は苛められて自殺した女の子の幽霊だった。

 異葉師に拾われて、悪霊となりはてたのだという。

 それならば、もしかしたら学校はつらいかもしれない。


「大丈夫ですよ。私のこと、守ってくださるんでしょう?」


 恥ずかしげに、ふんわりとわらう白。

(これ、これだ!! ギャルゲーのような、夢にまでみた日常だ!!)

 詩季は心の中で歓喜の声をあげる。
 高菜ありがとう、そしてごめんな! 俺はおまえのおかげで夢を叶えることができた!
 感謝の言葉が、罵声に変わったのは、その後の話だった。