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当然だ。自分の母親が首を吊っているところを見てしまったんだから」
僕は叔父さんの言っていることを、うまく認識できなかった。自殺? 母親が? 元気とはいえないかもしれないけど、まだちゃんと生きているじゃないか。
「美智子は助かった。救急車が到着したとき、心配停止状態だったが、孝雄の対応が早かったのと、救命士が適切な処置をしたために、なんとか一命を取り留めたのだ。しかし、酸素欠乏で脳に重大な損傷が残ってしまった。運動機能が麻痺し、記憶にも一部障害が残った。あれが車椅子を使っているのは、脳障害によって運動機能が麻痺したためだ」
僕は焦っていた。僕は孝雄に呼ばれて急いで来たんだ。早く家の中に入って、孝雄の元に行かなければ。あなたの与太話を聞いている場合じゃないんだ。
「美智子の兄に対する愛情は、愛という次元のものではなかったのかもしれない。美智子にとって兄は唯一の男であり、人間であり、その他のあらゆる生物は、ほとんど価値のない、自分とは関係のない領域でただ生きている雑多な生物に過ぎなかった。君は孝雄が周りをきょろきょろと眺めているのを見たことがあるか」
何度かある。変な癖だと思っていた。僕は頷く。
「あれはどこかにロープをかける場所があるんじゃないかと、探しているんだ。孝雄はまた母親が自殺するんじゃないかって、心の奥底でずっと思っている。今でも無意識にあの行動は行われている。兄の死は、家族に強い後遺症を残した」
じゃあ、ひょっとしたら、今まさに、母親は自殺しようとしているんじゃないか。だから僕を呼んだのではないか。いや、でも、もしそうだとしたら、先に救急車を呼ぶべきだ。あるいは、呼んだけど、僕のほうが先に到着したのか。それにしても、叔父さんのこの落ち着き払った態度はなんなんだ。
「あなたは、そんな家族に付け込むようなことをした」
僕はやっとのことで、そう言った。正直なところ、ちゃんと言葉になっているかは、はなはだ疑問だ。
「そう思われても仕方がないとは思うが、事実ではない」
叔父さんは悲しそうに否定した。初めてだ。冷ややかな表情に人間らしさが滲んだのは。
「孝雄君に聞いたんだ。あなたは孝雄君の母親と寝ていた。昼間だっていつも二人で外出している。孝雄君の父親は随分あなたのことを信頼していた。それを利用して、家族に入り込もうとしているんだ」
叔父さんは黙って僕を見ている。お前の言うことは、全部筋違いなんだよ。そう哀れむような視線だ。
「美智子がわずらったのは、運動機能の麻痺だけではない。美智子はあの日以来、ずっと記憶が混濁している。むしろ、そちらのほうが問題だ。美智子はおそらく、意識のある間のほとんどは、自分の夫が死んだとは思っていない」
叔父さんは一息ついた。適切な言葉を選んでいるように見えた。どういえば正しく伝わるのか。僕は孝雄が言った言葉を思い出した。お母さんから叔父さんを好きになったような気がする。孝雄は確かにそう言って、その続きはついに話さなかった。
「あれは、私のことを自分の夫だと思っている。私はあれの求めに応じて、夫として接してきた。共同生活者としても、男としても、だ。それが正しいことだったのかは分からないが、私にはそうすることしかできない。それが私の使命だからだ。毎日のように外に連れ出していたのは、